エコツアー大賞
著者プロフィール

吉田千春(よしだちはる)

吉田千春

フリーライター。海外旅行業界紙の記者を経て、ワーキングホリデーでニュージーランドへ。帰国後は、国内外のガイドブックやロングステイ関連本の取材・製作などに携わる。ワーホリ時代にハマったトレッキングが本格化し、ここ数年は冬山も通っております。

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ニュージーランドハイキング vol.21

レイク・マリアンで初キャンプ

レイク・マリアン編


私「ねーねー、いい天気だからレイク・マリアンに行こうよ」
工藤さん「おお、そりゃいいな。キャンプでもするか」
カブ君「じゃ早速、買い出し行きますか」
山に慣れている人は、山行計画をたててから実行までの時間が短い。食料計画や荷物をまとめるのも手際がよく、あっという間に出発準備ができてしまう。この日はその最たるもので、冒頭の会話から出発まで2時間もかからなかった。スーパーで買出しを終え、周一さんが居候している家に寄って彼にも声をかけ、4人で出かけることにする。まるで軍隊なみの団結力。普段は酒ばかり飲んでダラダラ過ごしているくせに、遊びに行くとなると我々の行動の速さはピカイチであった。

レイク・マリアン ホリフォード・ロード沿いにあるレイク・マリアンのコース入口の看板前にて。たかが1泊2日なのに、周一さん(左端)は相変わらず荷物がデカい

 コロミコ・トレックのパンフレットを見ると、レイク・マリアンまでのコースタイムは、往復4時間とある。女性らしい名前から勝手に、穏かなハイキング・コースを想像していたのだが、歩いてみると急な坂が多く、キーサミットほど道も整備されていなかった。
 それどころか中盤を越えると、足を膝の高さまで上げる登りが続く。なるほど日本人ツーリストがここに来ないわけだ。日頃歩いていなければ、この登りは結構こたえるに違いない。
 大量の食料やお酒をかついで登山するのはいつものこと。そして工藤さんと周一さんのバックパックが巨大なのも、いつもこと。だが、今日の彼らの荷物はいつもより重いに違いない。レイク・マリアンには山小屋がないので、男性陣は各自のテントを運んでいるのである。

晴れている分、気温も高く、森の切れ間から強い日差しが肌を突き刺す。体中、汗でビッショリだ。しかし、コースが短いと分かっていると、「早く終わらせたい」と思うのが人間というもので、頂上が近づくほど、我々の歩くピッチは速くなった。
 そんなこんなで、苦労しつつも2時間弱で到着。頂上はブッシュに囲まれた広場になっており、その奥にレイク・マリアンがある。湖の奥にはクロスカット連山が眺められ、なかなかの開放感だ。青い空にライトグレーの岩山、そして群青色の湖面。美しい名前に恥じぬ風景である。

 

師匠に囲まれてキャンプ開始

「よし、この辺にテント張るか」。
 私が、辺りをキョロキョロと見回している間に、3人はそれぞれ自分のテントを手際よく建て終わり、3つのねぐらが完成した。
 そういえば、テント張るのって初めて見たなあと思っていたら、それもそのはず。キャンプ自体が人生初の経験だった。私はカブ君のテントを借り、カブ君は周一さんのテントを借り、周一さんは工藤さんと同じテントで寝ることにする。

 暑いので泳ごうと湖に行ってみたが、氷河湖だけに水は凄まじく冷たかった。5分も浸かっていたら顔も体も紫色になりそうだ。しかも、ドイツ人とおぼしき巨乳のおねえさんがトップレスで泳いでいたので、男性3人は目のやり場に困り、湖に近づけなくなってしまった。
 仕方がないので、夜に備えて薪を集めることに。ここ数日の雨のせいで、地面に落ちている枝はどれも水分を吸っていたが、少々濡れているくらいなら、カブ君と周一さんがなんとかしてくれるだろう。彼らはホリフォードの山小屋でビショビショの薪に火をつけた実績もある。

 それにしても、彼ら3人の手際は鮮やかなものだった。周一さんが折れた木を引きずってくると、「オレ、ノコギリ持ってるぞ」と工藤さんがバックパックから糸鋸を取り出し、ギコギコと木を切り始める。プロの大工とはいえ、何でこの人はノコギリを常備しとるのだ??どうりで荷物がデカいはずだよ。彼の荷物の中には、さまざまな工具が入っているに違いない。
 こうして木が揃うと「焚き火王」の異名をとるカブ君が火をおこし始め、周一さんは円筒形の浄水器とビニールのバケツを持って、湖に水を汲みに出かけた。
 役立たずの私は、食事の手伝いをしようとしたのだが、カブ君はプロの料理人でもある。下手に手伝うより任せた方が早いので、私は手持ちぶさたの小学生のように、3人の作業をチョロチョロと手伝ってまわった。

レイク・マリアン初キャンプ
たき火に燃える工藤さんとカブ君。そして、それを子どものように見学している私

「おーい、焚き火に野菜いれるぞ」
「おお、美味そうっ!」
「皮手袋ある?」
「クッカーでお湯沸かすよ~。鍋出して~」
 なるほど。同じ山の中の宿泊でも、山小屋とキャンプでは楽しみ方が微妙に違うらしい。薪を集め、火をおこし、料理をし、酒を交わしつつ星を見て、寝る。それらは山小屋でもする行為だけれど、すべてを野外で行うことが、こうも違う印象になるとは思わなかった。
 考えてみれば、人生初のキャンプがニュージーランドのレイク・マリアンだったというのはかなり贅沢な話である。しかも、私以外はアウトドアの達人ばかり。なんという恵まれた環境でのキャンプ・デビューだろう。

 その晩はとても冷え込んだ。
 が、こうこうと燃えあがる焚き火のおかげで、我々は夜ふけまで酒を飲みながら、いろいろな話をして笑った。やがて酔っ払った周一さんが、ニコニコしながら私の横に座り、無言で私の肩に「がしっ」と音をたてて腕をまわした。
 今、彼が私の夫であることを考えると、あれは彼なりの愛情表現だったと思うのだが、それはいかにも昔の大学生が「同期の桜」とかを歌う時のソレであったり、新橋のサラリーマンのお父さんが頭にネクタイを巻いて、同僚にしなだれかかっているアレであって、肩を『抱く』ではなく、『組む』という表現がピッタリなのであった。
 私は「なんじゃい、コイツは?」と思ったものの、そんなことでポッと頬を赤らめる性格でもなかったし、なにしろ相手は酔っ払って眠りこけていたので、とりあえず、眠る周一さんに肩をつかまれたまま、工藤さんとカブ君と普通に話をするという、ヘンな態勢のまま、夜遅くまで過ごした。 

VOL.22へ続く

楽園を歩くニュージーランドハイキング目次 Vol.22