エコツアー大賞
著者プロフィール

吉田千春(よしだちはる)

吉田千春

フリーライター。海外旅行業界紙の記者を経て、ワーキングホリデーでニュージーランドへ。帰国後は、国内外のガイドブックやロングステイ関連本の取材・製作などに携わる。ワーホリ時代にハマったトレッキングが本格化し、ここ数年は冬山も通っております。

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ニュージーランドハイキング vol.24

線路の道と森にたたずむ美しい木橋に大満足

ワイトゥトゥ・トラック編 その3


 ポートクレイグ・ハットから次の山小屋、ワイラウラヒリ・ハットへと続く道は、軽自動車が通れそうなほど幅が広く、一直線に伸びていた。両サイドには木々が茂っているものの、上空を覆うものは何もない。薄曇の白い空から雨が落ちれば、あっという間にびしょ濡れになりそうだ。

 トレッキング・ルートにしては、ずいぶん広い道だなと思ったら、それもそのはず、ここは1920年代に材木を運ぶためのトラムが通っていた道だという。日本の大正時代に南半球の小さな国の、そのまた端っこの山の中で小さなトラムが材木をせっせと運んでいたなど、ここに来なければ一生知ることはなかっただろう。 ま、知らなくても人生には何の影響もないことだが、こういう史実を知って、その土地のことをちょっと見直したりするのも、トレッキングの楽しさだと思う。

 ぬかるんだ地面には、線路の枕木が見え隠れしている。映画の「スタンド・バイ・ミー」じゃないけれど、線路の上を歩くとなんだか懐かしいような、心地いい気分になるのはなぜだろう。半分泥に埋まった使い古しの線路でも同じ効果があるらしい。枕木だけを踏もうとピョンピョン飛び跳ねながら思わず口ずさむのは、やはり名曲、スタンド・バイ・ミーである。
「ふぇんざないっ(When the night)、はずかんっ(has come)、にゃにゃにゃーにゃにゃー(???)」。

 最初のワンフレーズすら歌えず、結局、歌の9割9分をハミングしているあたりが空しいわけですが、私は気分よく泥の道を歩いた。山の中の古い線路を歩くなんて、まさに映画スタンド・バイ・ミーの冒険のようではないか。

 それにしても、今までこんな荒れた道を歩いたことがあっただろうか。あっという間に靴の中は洪水のようになり、一歩歩くたびにズチャズチャと嫌な音を立てた。だが、その苦労も意外に早く報われた。1時間半ほど歩いた頃、いきなり森がスパンと切れ、目の前に巨大な白い木の橋が現われたのである。

 

知る人ぞ知る森の中の名所

 「わっ、なにこれ!」
 いや、たまには何の下調べもしないトレッキングというのもいいものだ。なんせ私と工藤さんは、このルートに線路の残骸や橋があるなど、思ってもいなかった。しかも、その橋のデカイこと、美しいこと。あまりの驚きに、思わず息をのんでしまった。

ワイトゥトゥ・トラック 見れば見るほど美しい木橋。でもこの上を汽車が通っていたかと思うとコワイ
ツリーファーン木橋の上からの眺め。パラソルのようにツリーファーンが広がる

木橋の名前は「パーシー・バーン・ヴィアダクト」。バーンというのは川を意味する単語なのでパーシー川の橋という、非常につまらない名前ではあるが、案内を見ると橋の長さは125メートル。高さは36メートル。1923年建築(1994年修復)とある。白い木を何本も組んだ橋脚がなんとも美しく、森の中で幻の遺跡を見つけたような不思議な気分になる。

おそらく10階建てのビルくらいの高さはあるだろう。橋の上から森を見下ろすと、まるで傘を並べたようにシダの丸い葉が生い茂っていて、恐竜映画の舞台のようだ。ガイドブックにも載っていない、知名度の低いトラックに、こんな面白い場所があるなんて。私はこのトラックを見つけてきたレイチェルに心から感謝した。

 3人で順番に写真を撮っていると、バタバタバタバタとけたたましい音が鳴り響き、ヘリコプターがやってきた。これだけの橋だ。ここは地元イチ押しの観光地になっているのだろう。ヘリはしばらく上空を旋回し、観光客に橋の写真を撮らせると、バタバタと去って行く。
 「いいなあ、金持ちツアー客は。泥にまみれることがなくて」。
と、言ってはみたものの、これは本心ではなかった。ヘリで飛んで来た彼らより、エッチラオッチラ何時間も歩いてきて、この橋と出会った我々の方が、あきらかに感動の度合いが大きいだろうと思ったからだ。

 

ジェットボートで遊びながら帰る

 先へ進むと、小さい木橋がさらに3つあった。
 残念ながら道そのものは単調で、景色が楽しめるような場所はなかったが、線路の枕木や橋があることが救いになったように思う。

ブーツ あまりに美しかった(?)ので、思わずブーツをパチリ。フィヨルドランドを歩くなら、これくらいの泥は覚悟しなくてはね

もはや靴の中は泥まみれで「あたしもう、どーでもいいの」という状態だったが、我々はなんとか16キロの道のりを歩き、目的地のワイラウラヒリ・ハットへ到着した。
 とりあえず山小屋の脇を流れるワイラウラヒリ川で足を洗い、トレッキングブーツの泥を落とす。

このトレッキングを計画したレイチェルによると、我々はこの小屋に泊まるわけではなく、ジェットボート で帰るのだという。
 「ジェットボートって、クイーンズタウンのと同じジェットボート?」
 「そうそう。同じヤツ。山小屋の側まで迎えに来てくれることになってる。それに乗って、この川をさかのぼって、ハウロコ湖をつっきって帰るよ」。
 「へええええええ。なんかすごいね」。

 約束の時間だというので山小屋の外で待っていると、ブオンブオンと音をたててジェットボートがやってきた。運転手のおじさん2人に対し、乗客は我々3人のみである。すごい。なんという贅沢! 以前、クイーンズタウンの「ショットオーバー・ジェット」に乗ったことがあったので、ジェットボートそのものに驚きはしなかったが、おじさん2人は我々を喜ばせようと、ガンガンにスピードを出して走ってくれた。 

この写真を撮ってくれた後、ドライバーのおじさんたちは「バイバ~イ」と去ってしまい、しばしの「放置プレイ」が楽しめました

さらには「岩の上で写真を撮ってあげよう」と、我々3人を川の真ん中の岩に飛び移らせ、カメラで写真を撮った後「バイバーイ」とボートで去っていったりもする。そのベタな演出に呆気にとられながらも、「きゃー、待ってえ~」なんて、ぶりっ子したりして。
 だが考えてみれば、こんなことをされても「本当に我々はこのまま置き去りにされて、荷物とカメラを盗まれうのでは?」と心配しなくていいのが、ニュージーランドのいいところだ。私に限らずこの国を知る人は誰もが、ここにそんな悪徳業者はいないと自信を持って言うだろう。ニュージーランドはそういう国なのだ。

 さらに、おじさんたちはボートを止めて、川べりの森を案内してくれた。季節は真夏の1月で、森の中ではサザンラタと木が赤い花をいっぱいにつけている。すっきりと晴れ渡った日なら、この赤い花は爽やかに見えたに違いなかったが、泣き出しそうな空の下、暗い森の中で咲く真紅のラタ花は毒々しく、妖し気に見えた。
 こうして我々はおじさんたちのジェットボート・ツアーを満喫し、このトレッキングを計画してくれたレイチェルに何度も礼をいいながら、ワイトゥトゥ・トラックの旅を終えたのである。

 現在、このトラックはハンプリッジ・トラックという名前になり、料金のシステムも変わってしまったそうだが(詳細はVOL22をご覧下さいまし)、私はこのトラックをもう一度訪ねたいと思っている。あのパーシーバーン・ヴィアダクトは、今も深い森の中にすっくと立っていることだろう。ビーチウォークにアットホームな山小屋、線路の道に美しい木橋。これだけユニークなトラックは例えNZといえど、なかなか見つからないと確信するからだ。

VOL.25へ続く

楽園を歩くニュージーランドハイキング目次 Vol.25